M2052合金の使い方
M2052合金の使い方
 この合金は以下のような使い方ができる。決定的な違いはあるが、一見してゴムと共通した使用法が多い。
M2052合金は、多種の形状で素材を供給でき、板・棒はもとより、パイプ、線材、細線、箔、粉末とあり、切削加工性・塑性成形加工性・鋳造性も良好であり、エッチングによる微細加工も掌握しているから応用は広範にまたがる。
 ・振動経路に挿入する
 ・振動源に貼り付ける
 ・振動源に粉末を塗布する
 ・振動源を囲う
 ・振動源同士を繋げる

概念図にすれば、図13となる。(A)挟む・挿入する、(B)支える、(C)結ぶ、(D)貼り付ける、(E)集める、(F)囲う、である。後述されるよう、これらは実例で効果が証明される。
図12
ゴムを介する伝達率
多彩な素材から自由な形状で使える
M2052合金の使い方
 成形加工が容易なことから多彩な形状の素材が取得でき思うままの製品が可能である。実際の素材例を図14、図15、図16 に挙げる。図14 の左上にあるネジ類は、金・銅・ニッケル・黒染の各種のメッキ処理を施したネジである。電気部品には導通の要請があり、金・銅のメッキにも対応できている。左端の長めの丸棒は1mm径の内ネジが貫通した特殊ボルトで、精密機器のパーツに応用された。メッキが可能なことは、ネジに限らず、この合金の耐食性・耐磨耗性を大幅に改善できることを示唆している。表示されていないが、0.1 mmの箔も製造されいてる。これは自由な形状に家庭用のはさみで切り取ることができ、貼り物や巻き物として使われている。

 スピーカーのインシュレータ、台座、ワッシャーもある。他に引張りと圧縮用のコイルバネと曲げ板タイプのバネがある。径が0.1mmの線材も示されている。図15は、パイプ類で、左が切削加工で、右が溶接で作製した製品である。図16 は最近話題の音響関連製品である。a)は、アナログレコード用のカートリッジのシェル、b)はそのカートリッジの下に敷くスペーサーである。c)とd)は対をなすもので、電源ボックス・タップである。雑音は電源から絶つ対策を講じなければ音質改善に限界があることはもはや常識化しており、その一環のパーツとして発売されている。e)とf)はディスク・スビライザーである。ディスクの上に置くだけで雑音を吸い取るグッズである。g)はターンテーブル用のスタビライザーである。h)はボリューム・スイッチのツマミであり、シャフトを通して除振する働きで効果が上がるという。i)はブレーカーのスタビライザーである。j)は厚手のインシュレータである。k)は機器やケースあるいはラックのフットとして使うパーツである。このように音響分野においては活用が矢つぎばやに進化を遂げている。

 パーツを溶接などによって結合することが可能であるから複雑な製品も創製できる。ペローズ、異型フオーミングの実績もある。
図13
代表的な使い方例
図14
ネジ・ワッシャー・バネ・台座・細線等の製品
図15
パイプ製品
バネ定数を下げる形状工夫による新機能-ゴムでは不可能な低周波除去
M2052合金の使い方
 この合金に見られる制振性能は、吸収可能な周波数が0.01Hz以下から10MHzという領域をカバーできる稀有な制振合金である。ゴムで経験するように、高分子材料は高周波を手軽に除去できる反面、低周波を除去する能力は小さい。したがって、精密機器分野では高価な除振台・装置をふんだんに使用しているが低周波を取り除けないため、有効に除振の機能を引き出せない問題を抱えている。超高圧電子顕微鏡においてもこの低周波に苦心している。変電所のトランスから発する超低周波公害の問題もある。これまで、材料自身が低周波を吸収するものは無かったのである。M2052 合金はこの従来からの課題を解決する糸口となりうる。
 低周波除去で問題なのは、大きな振幅をいかに克服するかにある。この振幅の大きさに対応するためには部位の形状を工夫し、バネ定数を調整することによってそれが可能である。振幅が小さい高周波の除去には、振動経路にこれを挿入するだけで有効となる。音響界でのほとんどの応用はこの部類であった。しかし、低周波であっても振幅が大きい振動に対しては、合金の内部で双晶を運動しやすくさせなければならない。それには振動外力を曲げ・捻り・せん断応力などに転換させる工夫が必要である。
 図17は、剛性的なままで使う典型例である。振幅が小さい振動はこの図のような単純な形状で目的を達成できる。a)はインシュレータやワッシャー、b)はガスケット・パッキング・リングである。c)は大型精密穿孔機用のスペーサーで、径が100mm・厚さが5mmもある。d)は回転体用のフランジにしたもので、右は、フランジ自体は鋼製であるがその片側にM2052製の板を押し当てて利用する例である。e)からh)はベアリング用のスリーブ類で、ホルダー・インナー・アウターの利用例である。これらの応用例は振幅が小さい場合の活用であり、点や線接点に荷重が集中してM2052が局部的に塑性変形しないような使い方をする限り難しいことは無い。
 図18は、装置・機器の土台にマウントとして使う例である。機器本体の大きな揺れ振動を制振性のあるマウントを用いて不要な振動を吸収しようとするものである。a)からc)までは振動を圧縮ならびに曲げ荷重に転換しうる形状である。本体から伝達してきた低周波を吸収、あるいは、その入力振動をマウントの低周波振動と干渉させ、低周波の低減を可能にする。d) は、本体の荷重によってあらかじめ引張りのプレ・ストレインをかけ、双晶の発生を容易ならしめるため意図的に準備された状態を持つマウントである。いずれにしろ、このような形状ではバネ定数は低く、吸収できる振動の周波数と振幅はその形状から一義的に決定される。定性的には、バネ定数が低いほど低周波・高振幅を除去できると考えられる。後述のマウントの実用例のように、25Hz 付近の低周波を著しく低減した。
 図19は、コイル形状の応用である。バネ定数を手軽に小さくし、しかも高い信頼性を得るには金属製のコイルである。普通のバネは強度の高い合金が使われており、合金自体は振動吸収能力はほとんどないから、高周波はそのコイルを自由に往来し、時にはサージング現象を発生し、低周波もあまり低減できない。しかし、M2052合金で作られたコイルはバネではなく、まったく新しい機能をもたらす。
 表3は、代表的なバネ機能を示す構造と制振性コイルの特異性の対比である。特徴的なことの一つは、前回で示してように、M2052合金製であれば絶対温度近くでも制振性は失われないことである。固有振動数も構造しだいでバネ弾性体としては最も低い値を創り出すことが可能である。コイル同士、すなわち、コイルバネとM2052コイルを比べれば、性能に歴然とした差が出る。通常、金属コイルバネは高周波絶縁性が小さいから、後述のように、ステンレス製とM2052製のコイルバネとの比較にその差異が顕著に現れている。両者を同じ振幅で振動させ、静止するに要した時間を比較した場合、ステンレス・コイルでは40秒後でさえ振動はまだかなり残存していたが、M2052合金製コイルの場合はその1=20の2秒で停止した。図19にもあるように、コイルの断面形状・面積のバリエーションによってバネ定数ばかりでなく固有振動数も変えることが出来る。また、c)のように、コイルを集合させる使い方も出来る。d)やe)は、コイルとは異なった形状によってバネ定数を変化させる例である。成型加工性が優れているから、アイディア次第で思いのままの作品を創作できる。
 図20は、今までの図よりも簡単な構造で成果が期待できる応用例である。a) 板をU 字形に曲げたもの、b)椅子のように凝った形、c)線あるいはパイプを輪にしてオーリング的な応用に使う、d) とe) はパイプの利用である。このような撓ませる使い方をすれば通過する高周波の吸収に加え、低周波はその構造に依存したバネ定数との干渉によって除去の可能性が生まれる。U字板の成果は後述する。
 図21は、a)ベロー、b) ダンパー線、c)からf) は高周波・低振幅を発している電子回路に、バネ定数の小さな端子を貼り付けて振動を制するパーツである。M2052製のレゾネータである。
表3
代表的弾性体とその比較
図16
音響界の新製品例
図17
高周波・低振幅の応用
図18
準高周波・低振幅の応用